とくみつのひきこもり相談ブログ

7年3ヶ月ひきこもり無職の後、働き始めました。
ひきこもり無職の間、怖い経験をしました。
このブログは自分と同じ目に遭ってほしくないという思いで立ち上げました。

幻聴に殺されそうになった話-6「家族」

 マンションに入り3階へ上がると母さんが玄関を開けて待っていた。
「よう来たねー」
 笑顔で迎えてくれた。安心した。すっと肩の荷が下りたというか
 気分が落ち着くというのは正にこういう事なんだな。
 父さんも笑顔で迎えてくれた。
「先生から電話があったけど本人から無かったもんだから」
 教会の先生が父さんに電話をしてくれていた。
「ごめん。電話する余裕なくて」
 僕は当然スマホや携帯電話などは持っていない。ひきこもりなら普通だ。


「道分かった?」
「それが思いっきり迷っちゃって……路面電車が見当たらなくて」
「改札から出る時に1回切符が出なかったか? 北口から出たんじゃないか?」
「あ……」
 父さんに指摘されてやっと気付いた。
 広島駅は新幹線のホームから路面電車がある南口に出ようとするとJRのホームを通過するために改札を通っても1回切符が出てくる。それが無かったということは北口から出てしまったんだ。
 それに気付いたときに青ざめた。両親がいるマンションとは全く逆方向に歩いていたのだ。新白島駅にたどり着けたのは運が良かったとした言いようが無い。
(俺は北口から出たことに気付いていたけどね)
 幻聴さん……なんで教えてくれなかったの?
(なんで教えてくれると思ったの?)
 そうだ、幻聴さんはこういう奴、いや、こういう存在だった。
「そういう時は駅員に聞かなきゃ」
「うん……」
(ほらほら、同じこと言われているよ)


「ヤクザがどうたらゆーとったけ、心配しとったんよ」
 母さんが不安そうに話しかけてきた。
「ごめん、それ全部勘違いだった」
 現在の自分の状況を説明した。幻聴さんの話をすると父さんが食い付いた。
「それ死霊かなにかじゃないか?」 
(死霊じゃねーよ)
 幻聴さんが即突っ込んだ。
(なんなんだ? お前の親父)
 僕の父さんはオカルトマニアだ。1999年が近づいた時はノストラダムスの本を買い漁り、2012年が近づくとマヤ関連の本を集めていた。宇宙人やらUFOやらも信じていて地球空洞説も信じている筋金入りだ。それさえ無ければ本当に良い父なんだが。
 母さんは母さんで今やっている宗教を妄信している。
 僕が神様を信じなくなったのは両親を反面教師にしていたからだ。
 ついでに両親の話をすると父さんは定年まで勤めあげしばらく神奈川に住んでいたが
2年前に故郷である広島に母さんと共に移り住んだ。
 そして家族の話をするならもう一人、僕には兄がいた。兄の話はまた後で記す。


「幻聴さんを悪く言わないで。僕よりも上にいる存在だから」
 橋の上で論破されたように口論では全く敵わない。
「でも四六時中話しかけられるんだろ? とくみつの都合はおかまいなしだ。

 とくみつにとって良い存在とは思えない」
「幻聴さんとの会話も楽しんでいるから。とにかく悪く言わないで」
 父さんが心配する気持ちも分かるが、とにかく大丈夫だからと強調した。
「その幻さんの目的ってなんだ? なんでとくみつに取り付いているんだ?」
「そんなの分からないよ」
「それでしばらくはこっちにおるんでしょ?」
 母さんは僕が来たことが本当に嬉しそうだった。
「いやこっちで一泊したら明日帰るよ」
「なんで?」
 二人とも困惑していた。両親が戸惑うのも無理は無い。
「ヤクザはいないって分かったし。もう大丈夫だから」
「でも幻さんに取り付かれているんだろ? 本当に大丈夫か?」
「明日教会に行こう?」
「教会には行くよ」
 信じてないのに付き合っているのは親孝行みたいなものだ。昔は信じる信じないで喧嘩したこともある。喧嘩は不毛なのでお互い宗教については話さない。そういう暗黙の了解ができていた。
 僕としては会員なのは義理でやっている。そんな感覚だった。


 疲れているのですぐに休ませてもらうことにした。布団に入ると子供の声が聞こえた。
(オヤスミー)
 疲れもあってすぐに眠りにつくことができたが夜中に不意に目が覚めた。幻聴さんがぽつりとつぶやいた。
(親父さん起きてるな)
 まさかと思い聞いてみた。
「父さん起きてる?」
「起きてるよ。なんで分かった?」
 父さんが驚いて顔を合わせた。本当に起きていた。
「幻聴さんが教えてくれた」
「なぜ?」
「分からない。たぶん父さんに幻聴さんがいることを証明したかったんじゃないかな」
「幻さんはとくみつに何をさせたいんだ?」
「分からないよ」
「とくみつの力が及ばない存在なんだろ?
 そんな存在からすればとくみつは期待外れじゃないのか?」
(期待外れじゃ無い!)
 唐突に幻聴さんが声を荒げた。
(期待外れじゃ無いって言え! 早く!)
「幻聴さんが期待外れじゃ無いって言えって」
「期待外れでは無い? でも何をすればいいか教えてくれないんだろ?」
 そうだが僕は幻聴さんがいきなり僕を庇った事が意外だった。
 今までそんな素振りすら無かったのに。やっぱり死神では無い?
(くそっ……)
 ツンデレとかではありえないよな。本当に何がしたいんだ。
 考えても想像が付かなかったので、あまり深く考えず眠ることにした。
 長い2月7日が終わった。



 2月8日。
 約束通り親と一緒に教会へ行くことにした。
「前は広電を使ったけど今日は歩いて行こう」
 父さんが徒歩で行くことを提案した。
 僕は昨日迷子になった関係で疲れていて路面電車で行きたかったが黙っていた。
 平和記念公園の川を挟んで右の道を通って教会に行った。
(ニートワイマゲンバクドームダヨ)
 子供の実況は相変わらずだった。


 教会に着いて先生に会うと両親が僕を帰したくないと主張した。
 先生は息子が大丈夫だと言ってるのだから息子の言葉を信じてやれと説得してくれた。 
 両親のマンションに帰ると母さんがせめてもう一泊と食い下がった。
(ふざけんな! 今すぐ帰れ!)
 男がキレていた。病院にも行きたかったから今日帰ると言った。
「お父さんと将棋指しなさい、ね」
 母さんの勧めで父さんと一局将棋を指すことになった。
(なに呑気に将棋なんか指してんだ! 早く帰れや!)
 ささやかな親孝行だと思ってくれ。
(その将棋が終わったらすぐに帰れ)
 そう言って男は黙った。
 父さんは息子と将棋を指すのがやっぱり嬉しいようだ。
 棋力は父さんが二段で僕は一級程度。平手でやるから勝てっこない。
 今回も何もできずに負けた。負けるのが当たり前なので悔しくもなんとも無かった。
 もっともこの将棋を指す意味は勝ち負けとはまったく別の意味を含んでいる。
 そのこともいずれ記していければと思う。


 将棋が終わりすぐ神奈川へ帰ることにした。
 母さんは玄関から出て見送ってくれた。
 さあ帰ろう。
「無事に帰れるといいね」
 幻聴さんの真意はまだ分からないがヒントをくれているのは確かだ。
 ちゃんと聞き流さずに考えようと思った。


 つづく


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